桜がもっとも似合う街・京都。1年のうち数十日間だけ楽しめる薄紅色の花は、儚くも美しい。何世紀を経てきた寺社仏閣や見事な庭園とともにおさまる桜は、古都京都ならではの光景。桜の名所や精進料理のランチ、甘味処などを巡る日帰り旅行へ、この春も訪れたい。
(写真:平野神社)
2017.02.20 掲載
まずは、世界文化遺産でもある「天龍寺」へ。ここは足利尊氏が後醍醐天皇の菩提を弔うために建てた、臨済宗の名刹。夢窓疎石(むそうそせき)作庭の曹源池庭園は嵐山・亀山を借景とした池泉回遊式の名庭で、日本初の史跡・特別名勝にも指定されている。
四季折々の花々が咲く庭園には、ソメイヨシノや八重桜、山桜など、多彩な種類の桜が咲き競う。見頃は、3月下旬から4月中旬。桜以外にも、ツツジやヤマブキ、ハナズオウ、シャクナゲ、モクレンなど春の花が楽しめる。
広大な庭園の中でもひと際存在感を放つのが、見事な枝ぶりが洛西随一と称されるしだれ桜。多宝殿周辺に立つ幾本ものしだれ桜がときおり“桜の雨”を降らす光景に、移ろいゆく季節のはかなさを感じる。
嵐山を借景に壮大な景色が広がる曹源池庭園。青々とした嵐山に映える桜と、手前の水面に写る桜の両方が楽しめる。
天龍寺を見渡す「望京の丘」からの景色。境内を淡く染め上げる桜の美しさが目を奪う。東山の山並みも望め、雄大な春の風景を満喫できる。
お昼に訪れたのは、天龍寺の境内にある「篩月(しげつ)」。藍色の暖簾が目印の由緒ある精進料理店で、非日常のひとときを味わえる。
動物性の素材を使用せず、野菜中心の季節感に満ちた材料を使うのが精進料理。「五味・五色・五法」を大切にした料理をいただくことができる。
鎌倉時代以降、食材や調理道具とともに中国から伝えられた精進料理。料理が映えるこの朱色の器は、篩月の特注品。いただいたのは、椎茸やぜんまいの炊き合わせ、ごま豆腐、ゆり根のかき揚げなどが味わえる、一汁六菜の「月」。
旬の野菜をはじめ、山菜や野草、海藻類を使用。無駄をいっさい出さない調理法が精進料理の特徴。食をいただくという行為の尊さを感じる。
本館が満席になった場合は、落ち着いた空間の別館へ通される。希望すれば当日受付時に申し出て、別館への席変更も可能。別館では、嵐山の季節の移ろいや目の前の庭園を眺めながら、ゆったりと精進料理をいただける。
食後に訪れたのは篩月から歩いて約6分のところにある、明治41年(1908年)創業の老舗和菓子店「有職菓子御調進所 老松」。婚礼菓子や茶席菓子をはじめとした季節の和菓子を、店内でいただける。
煎餅発祥の地にある嵐山店。店先の立て看板には、弘仁年間(810年)に帰朝した空海からこの地域に煎餅の製法を伝えたことが記されている。
「生菓子セット」でいただく抹茶は祇園・辻利のもの。生菓子は、季節に応じて常時約6種類が用意されている。春は白こしあんを使用して桜を模った「弥生」がおすすめ。
「夏柑糖」は夏みかんの中身をくり抜いた器に、寒天と果汁を合わせて再び戻した涼菓。(販売は4月~)。夏みかんの甘さとほろ苦さが程よく口の中でほどける。
店舗奥に併設された茶房「玄以庵」。季節によって表情を変える庭を眺めながら、老舗の和菓子を堪能できる。静かなひとときを過ごすには最適な空間。
妙心寺の塔頭の一つ「退蔵院」。桜を楽しむべく、池泉回遊式庭園の「余香苑」へ。桜があった場所はもともと竹林で、先代の住職が訪れる参拝客に感動を届けようと紅しだれ桜を植えることを決意したとのこと。撮影時(2016年)は六分咲き。満開は例年4月上旬とのこと。
桜・蓮・楓など、1年を通して華やぐ庭園は、昭和の名造園家である中根金作氏によるもの。庭園の中心には、本堂で目にすることができる日本最古の水墨画「瓢鮎図」にちなんだひょうたん池があり、水のせせらぎや水琴窟などの音色が心を落ち着かせる。
「余香苑」のさらに奥にある「茶席 大休庵」。どの位置からも庭を一望でき、雪見障子から眺める紅しだれ桜は、まるで一枚の絵画のような姿。
抹茶とともに退蔵院特製の茶菓子「瓢鮎菓子」をいただく。鯰の絵が描かれたどらやきは、しっとりとした皮に甘さ控えめの餡。境内の売店でも販売されている。
日が暮れてきたので、夜桜を見に平野神社へ。平安時代に花山天皇が桜をお手植えされたことから桜の名所として知られており、夜桜見物は「平野の夜桜」として京都でも人気が高い。
境内に咲き誇る桜苑には「魁(さきがけ)」「平野妹背(ひらのいもせ)」「手弱女(たおやめ)」などの珍類を含む、約60品種400本の桜がある。時期がずれて咲いていくので、約1ヶ月にわたって桜を楽しめる。
春以外の時期はひっそりと佇む小さな神社が桜色に染まるのは、3月中旬から約1ヶ月間。柔らかい提灯の明かりに灯される夜桜は、美しく幻想的な光景。
境内には露店や桟敷席が並び、酒宴を交えた花見を堪能する参拝客で賑わう。花見酒を嗜みながら頭上一面に咲く桜を見上げるのも楽しみの一つ。
蝶が飛んでいるように見える「胡蝶桜」、一重の「寝覚(ねざめ)桜」、一見菊桜のように見える紅色の突葉根(つくばね)桜など、どの花もじっくりと鑑賞したい。
※紹介している内容は2016年4月時点のものです。詳細や開花状況は各施設に直接お問い合わせください。
日本らしい歴史ある寺社と桜を同時に楽しめる春の京都。桜の名所をいくつも訪れる合間に、市内の精進料理や甘味処でひと息。日中から夜まで、さまざまな光景に出会える桜づくしの日帰り旅をじっくり楽しみたい。