平安時代に貴族たちの雅な遊びとして嗜まれ、作法のもと発展していった香道。貴族たちは薫物合(たきものあわせ)と呼ばれる香りの調合により、自分だけの香りを競って作り出していた。現代ではおもに室内香として用いられる煉香(ねりこう)を、好みに応じて原料を調合する。老舗の香木店で、心安らぐ自分だけの香りの世界にしばし浸ってみたい。(写真:山田松香木店)
2017.05.23
江戸明和~寛政年間創業の、香木を取り扱う老舗・山田松香木店。近年は日本の香りの文化に触れるべく、海外からも多くの観光客が訪れる。
山田松香木店では香木を専門に取扱い、お香や匂袋、香飾りなど定番から季節限定まで、香りにまつわる商品を幅広く揃える。
携帯できる布香盒(ぬのこうごう)。華やかなデザインの物も多く、アクセサリーや小物入れとしても使える、山田松香木店でも人気の商品。
店内では商品を手に取って、香りを試すことができる。お手軽なスティックタイプなど、形状や種類も豊富。
山田松香木店では原産地より直接買い付けから輸入、鑑別そして製品化までを一貫して行ない、高い品質を誇る。
講師から原料の香木についての説明を、実際に香りを試しながら聞く。山田松香木店では、植物由来の原料を中心に使用する。
沈香(じんこう)とは香りの土台を作る原料の一つで、沈丁花(じんちょうげ)の樹脂が固まったもの。
三大香木の一つとも称される沈丁花は、加熱して樹脂が溶けるときに幽玄な香りを発する。鎮静効果もあるとも言われている。
麝香(じゃこう)など動物性の香木は独特の匂いが強く扱いが難しいが、そのぶん香りが長持ちする。
体験は聞香(もんこう)コースと調香コースから選べる。今回選んだのは調香コース内の「薫物作り」。まずは香りの基礎を作っていく。
樹木由来の香料全般が香木と称されるが、一般的には伽羅(きゃら)・沈香(じんこう)・白檀(びゃくだん)を指す。
しっとりとした甘い香りが特徴の安息香(あんそくこう)。呼吸器系の薬に使用されることもある。
さきほど香りの説明を受けた、動物性の麝香(じゃこう)を調合。香りが強いので、少量を加えるだけで全体の香りに深みが増す。
数種類の香原料を調合して、基礎となる香りが完成。すでにこの時点で、気持ちが安らぐ良い香りがする。
次に作りたい香りの方向性を決める。迷ったときは講師に香りのイメージを伝えて、アドバイスをもらうこともできる。
巷で言うところの"甘い”"さっぱり”"スパイシー”など、頭のなかで思い描く香りのイメージに合わせて原料を選んで調合を進めていく。
さまざまな特色を帯びている山田松香木店の香原料がずらりと並び、目(香り?)移り必至。
調合途中では減らすことができないので、少量ずつ加えながら香りの具合を確かめつつ進めるのが肝心。
同じ香原料を足したり新しい香原料を追加したり、基本的に自由に調合できる。時には瓶から直接香りを確かめ、最初に思い描いた香りのイメージを思い出す。
ここまでの調合ができたら、熱伝導を促し防カビ効果のある炭の粉をまず入れる。
次に山田松香木店特製の蜜を加えて、香原料炭の粉をしっかり練りあわせていく。
耳たぶくらいの柔らかさと艶が出てきたら、混ぜ合わせたものを真珠大くらいに丸めて煉香が完成。
香炉の中で点火した炭に灰を被せ、灰全体を熱する。煉香は炭の真上を避けて置く。
煉香は煙が出ない程度で緩やかに熱するのがポイント。一粒で約10~15分ほど、平安朝より育まれた日本独自の香り文化を楽しめる、雅なひととき。
※体験の各工程での所要時間は目安です。開始時刻や当日の混雑状況、追加の作業などによって異なる場合があります。
※紹介している内容は2017年3月末時点のものです。体験内容の詳細や予約は、店舗に直接お問い合わせください。
佛前への供香(そなえこう)として用いられた香は、平安時代に薫物(たきもの)として教養や趣味の一種に広がりを見せ、その後室町時代に香道が確立された。日本人独自の感性で作り上げられた伝統的な香りの文化に触れるのが、今回の薫物作り体験。