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2020.4.21

【名物探訪】湯けむりとスッポンの何某

【名物探訪】湯けむりとスッポンの何某
旅に出るきっかけは人さまざまだが、なかでも大きな比重を占めているのが「食」。普段の食生活の中では馴染みのない食材だが、旅の思い出として心と舌にいつまでも残るような滋味深い味が、全国各地にはまだまだ存在する。(写真:奥飛騨・平湯温泉)

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水温の高い地域に生息するスッポンが、なぜ岐阜県の山奥に?

 このコラムを読まれている読者の方々は「スッポン」を食べたことがあるだろうか?

 なぜ、冒頭からスッポンの話をしているかというと、スッポンについて興味深い話を耳にしたからだ。スッポンは、九州など水温の高い地域にしか生息しておらず、寒い季節には冬眠をする生き物。そんなスッポンが、日本列島のほぼ中央に位置する岐阜県・平湯温泉で養殖されているという。平湯温泉は飛騨山脈にある乗鞍岳の北麓に位置する、奥飛騨と呼ばれるエリアに属する温泉街。冬場は一面が雪景色となる。

「そんな土地で、なぜスッポン?」好奇心のおもむくままに、自身にとって初めての地・奥飛騨へと向かった。

鉄分を多く含む温泉(含鉄泉)では、空気に触れると酸化して黒ずんだ朱色を帯びる(写真:のりくら一休の露天風呂)

 戦国時代に開湯したとされる平湯温泉は、奥飛騨温泉郷の中でも最も古い温泉地。戦国時代には武田信玄の配下の名将・山県昌景の軍がこの一帯を進軍した際に、疲労を癒やすために湯に浸かったという謂われがある。約40もの源泉が点在している平湯では、鉄分や塩分の含有など異なる泉質によって、湯の色までも異なる温泉が同じエリア内に密集しているというのも、温泉好きにはたまらない話。

 大阪からは新幹線とローカル線を乗り継いで高山へ。そこから平湯温泉に直通する濃飛バスへと乗り込んだ。車窓を次々と流れていくのは、遥か彼方に稜線が見える北アルプス山脈の青々とした景色。ほとんど信号のない山道を揺られること約1時間。バスを降りると8月にも関わらず肌に触れる空気はひんやり。目の前に広がる新穂高をはじめとする北アルプスの雄大な景色は、まさに圧巻の一言。山からおりてくる澄んだ空気は、夏から秋への季節の境目が近いことを教えてくれる。

温室内は、スッポンにとって適温の約30度前後に調整。人の気配に敏感で、室外から覗き込んでもすぐ温泉の中へ潜る

 温泉宿が軒を連ねる表通りを散策していると、湯煙を上げるガラス張りの温室らしき棟が先のほうに並んでいた。櫓を模した入り口の看板には「ナガセスッポン養殖場」の文字。温室の横に建つ、伝統的な日本家屋をイメージしたモダンな建物の中へ。職員の方へ取材を快諾いただき、普段は一般公開されていない湯煙の立つ温室へ連れて行ってもらった(※通常の見学では「小さな水族館」のみ見学可能)。

 もうお気づきの方もいるかもしれないが、ナガセスッポン養殖場では地域に湧く温泉で4万尾のスッポンを育てている。ちなみに平湯温泉の源泉は、ミネラルをたっぷり含んだ北アルプスからの清らかな雪解け水。

 スッポンは臆病な生き物なので、ささいな音にも敏感に反応する。姿をひと目見ようと、温室の窓からそっと中を覗いてみたのだが、足音に反応し、すばやく温室内の温泉の中に潜ってしまった。亀のような見た目からは想像できない俊敏さには、意外な驚きをおぼえた。

旅人、スッポンラーメンを食す・・・

養殖所に併設された、70年代後半~80年代前半くらいの製品直販所。右下は現在の直売店舗

 この養殖場の始まりは、昭和40年代後半へと遡る。

 飲食店や自動車教習所、不動産など、さまざまな事業を展開していた先代の長瀬元吉は、不動産業をきっかけに平湯温泉へと訪れた。その時、平湯の大自然と豊かな温泉、そこに暮らす人々の優しさに感銘を受け、平湯温泉街を永住の地に定めたのだ。

 平湯温泉の土地にちなんで所有地を掘ってみたところ、温泉が湧き出た。その温泉を使って、まずは熱帯食用魚のいずみだい(テラピアニロチカ)の養殖を始めてみることに。しかし、いずみだいの消費地が中京地区であることから時間や労力面での損失が多く、事業の見直しを迫られていた。代案を考えていた時、地熱を調査する会社の社長から平湯温泉の温度がスッポンの生育に適していることを聞き、スッポンの養殖へ切り替えていったという。

独自配合の飼料と職人の経験に基づいた調整で作られた餌を食べるスッポン。首をのばして餌の塊に頭を突っ込む様子は、どこか愛らしい

 しかし、冬場の豪雪・極寒を伴うこの土地での養殖は、生半可な気持ちでできる仕事ではない。除雪作業やつらら落としなど、この土地ならではの重労働はもちろん、源泉ゆえの湯の花が咲く温泉を使用しているため、配管のつまりにも気を配らなければならない。

 なかでも、最も気にかけているのは「温泉の温度」だという。スッポンが活発に過ごすための適温は約30度。朝昼夕と1日3回、温泉の温度を測り調整しているらしい。これ以上水温が下がると餌の食いつきが悪くなり、これ以上水温が高いと死んでしまう恐れがあるのだ。そのため、飛騨山脈南部アカンダナ山と安房山を源とする山水を使って約60度の源泉の温度を調整。ゆえに、水質を判定するpH試験紙を用いた水質管理も毎日欠かせない仕事だという。
 こうして徹底的に管理された環境で育つスッポンは、自然界で約5年かかるところを約1年半で立派な大人サイズになるという。温泉で育つがゆえに冬眠しない環境が理由の一つだが、加えて生育を左右するもう一つのポイントは、与える餌にある。

 現在の餌に辿り着くまでには、かなりの年月を要したという。多くは語られなかったその餌は自然由来の植物性タンパク質が主成分となっており、スケソウダラの魚粉やカルシウムを加え、綺麗な山水を使って練り上げられている。湿度・温度によって調整が必要になるため、職人が毎日丹精込めて作っており、その熟練技による餌は生育にだけでなく、スッポン特有の生臭さの改善にもつながっているという。

「一休庵」で提供されるすっぽんラーメン(1,000円/税込)。“ダブルスッポン”スープに食欲をそそられる

 ナガセスッポン養殖場で聞いた、もう一つの興味深い話は「スッポンを使ったラーメンを近所で食べられる」というもの。

B級グルメの代表と言えるラーメンに、A級(高級)食材のスッポン?
伊勢海老ラーメンのように、姿形がハッキリ分かるような見た目?

 よその地域では聞いたことない、この不思議なラーメンを食べに訪れたのは、養殖所から歩いて5分の通り沿いにある「一休庵」。スッポンラーメンはナガセスッポン養殖場の創業30周年を記念して提供されている特別メニューで、約2ヶ月の試行錯誤のすえに完成した。

 味の方向性を決めるスープは、乾燥スッポンを生姜とともに3日間煮込んだスープに、生のスッポンを約3時間煮詰めたエキスを合わせた、いわば“ダブルスッポン”。生のスッポンのエキスはコラーゲンたっぷりで、スープに絶妙なコクをもたらすそうだ。

 「もしかしてスッポンが1匹、麺の上にのっているかも」とやや及び腰だったが、この話を聞いていっそう食欲がわいてきた。

ちぢれ麺に特別なスープがほどよく絡む。合わせる具材も、スッポンの風味を損なわないよう組み合わせてある

 注文して待つこと10分、スッポンラーメンとご対面。まず目に飛び込んできたのは、淡い金色のような透明感あるスープ。まずはスープを一口飲んでみる。スッポンの旨みと程よい塩加減に三口四口と、レンゲが止まらない。

 しばしスープを味わったあとは、麺と小松菜をためしに一緒にすすってみる。京都の亀岡にある某製麺所からわざわざ取り寄せているちぢれ麺はスープによく絡み、あたかも麺がスッポンの身の代わりになっているかのよう。盛られている具材は、たまご、ほうれん草または小松菜、きくらげ、たけのこに長ネギ。味が濃いメンマやチャーシューは、スッポンスープの風味を邪魔するので用いないのが、お店のポリシー。濃厚だがけっして淡泊ではない。スッポンには「滋味深い」という言葉がよく似合う。

 新鮮なスッポンは平湯近隣の温泉宿にも卸されており、各宿泊施設では鍋や唐揚げなどとして、旅行者の胃袋と好奇心を満たすご当地食材として食されている。スッポンラーメンで俄然、食材としてのスッポンに興味がわいた身としては、その滋味深い味の源となる「部位」を試さずして旅を終えることなどできない。

 お世話になった職員さんに御礼を伝えた後、スッポンをおいしくいただける旅館はどこか、たずねてみた。

旅人、極上スッポン鍋に我を忘れる・・・

入ってすぐの囲炉裏が印象的な山荘イメージの温泉旅館「奥飛騨山荘 のりくら一休」

 教えてもらったのは「奥飛騨山荘 のりくら一休」。温泉街から少し高台に上がった場所にある温泉宿だ。穏やかな笑みをうかべて出迎えてくれた店主と女将に、平湯のスッポン料理を相談。
鯉のあらいや山菜を用いた逸品がついた、おすすめのスッポン鍋コースをいただくことに。

 お食事処には囲炉裏があり、炭火の上の鍋には黄金に輝くスープで満たされた鍋が煮立っていた。

普段あまり目にすることのないであろう、スッポン鍋の具。あらゆる部位が食べられ、栄養素がふんだんに溶け出したスープも絶品

 しばらく待っていると、いよいよスッポンが登場。身はもちろん、甲羅までもが盛られている。さっそくスッポンの各部位を鍋の中へ。

 ぐつぐつと煮えた鍋からまず一口めに選んだのは、スッポンの脇腹にある白い脂肪のかたまりがついた身。さっとポン酢にくぐらせて口に含んだ瞬間、かたまりの皮がはじけて濃厚な脂そしてうまみが口の中に広がる。身のコリコリとした食感とともにその味わいをじっくり堪能したあとは、各部位をいただいていく。

見慣れない食材の体の構造をも眺めつつ鍋に入れていくというのは、思っていた以上に新鮮な経験。甲羅上部に写っている頭部も、文字取り“頭から丸かじり”

 ナガセスッポン養殖場の創業者にして先代の長瀬元吉は著書「すっぽんの挑戦」(千早書房)の中で『一物全体』を食べることの素晴らしさを説いている。一物全体とは漢方の教えで、食物を食べるときはその食物をまるごと食べるのが一番いいとされている(例えば魚なら白身や赤身、骨などをすべて食べる)。

 スッポンは甲羅や頭をはじめ、内蔵や肉、骨、脂肪などあらゆる部位が食べられ、しかも味わいが異なっているのが興味深い。特に「濃厚なうまみが凝縮されている」と感じたのは、頭と手足の付け根の肉だ。スッポンの生態を考えるに、一番よく動く部位だからだろうか。手足の付け根の肉を噛みしめると、あたかも上質な鶏肉に似た食感と味を連想した。

「こんな部位まで食べられるんだ!」と感心。エンペラはゼラチン質が多いので、煮込みすぎるとそのままスープに溶け出してしまう

 女性へのおすすめは、何といってもコラーゲンたっぷりのエンペラ(甲羅の周りについた柔らかい部分)。早く食べないと、そのまま溶けてスープとなってしまう。スッポンを食べる時には、ぜひ食べてほしい部位だ。

 スッポンと聞くと、生臭さを思い浮かべる人もいるかもしれない。平湯のスッポンは先述の通り養殖場の職人による餌や北アルプスのキレイな水で育っている環境により、生臭さを感じることなく最後までおいしくいただけた。

 「美観と美湯の旅」が満喫できる平湯温泉だが、“スッポンの里”と呼ばれるようになるのも、そう遠くはないかもしれない。例年10月中旬くらいまでは紅葉が美しい平湯温泉で、地域に育まれてきた“美食”も堪能する旅に出かけてみてはいかがだろう。
文:龍雲水麗子
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